ベトナムの首都ハノイは、その歴史と文化の豊かさで知られていますが、特産品もまたその魅力の一つです。特に、ハノイの秋を代表する特産品「Cốm」(コム)は、地元の人々に愛され続けている伝統的な食べ物です。この記事では、日本人に向けてCốmの歴史、製造過程、楽しみ方、そして文化的な意義について紹介します。
1. Cốm(コム)とは?
Cốm(コム)は、若い緑色のもち米を原料とした伝統的なベトナムの食品で、特にハノイの秋に収穫されます。この若いもち米は、まだ熟成していないため柔らかく、特有の香りと甘みを持っています。Cốmは、その自然な風味と鮮やかな緑色で、ハノイの秋を象徴する食べ物として知られています。
1.1. Cốmの種類
Cốmには、いくつかの異なる種類がありますが、最も有名なのはハノイの郊外にあるVòng村で作られる「Cốm Làng Vòng」(コム・ラング・ヴォン)です。この村は、伝統的な製法を守り続けており、その品質と風味は他の地域のCốmとは一線を画しています。
また、Cốmはそのまま食べるだけでなく、さまざまな料理やスイーツの材料としても使用されます。Cốmを使った餅菓子「Bánh Cốm」(バイン・コム)や、Cốmをまぶした揚げ肉料理「Chả Cốm」(チャー・コム)などが代表的です。

2. Cốmの歴史と伝統
Cốmの起源は数世紀前にさかのぼります。当時、ハノイ周辺の農村では、稲作が主要な農業活動でしたが、ある年の秋、台風が稲の収穫期を直撃し、農民たちは未熟なもち米を収穫せざるを得なくなりました。そのもち米を炒って作ったのが、Cốmの始まりとされています。
Cốmは、ハノイの秋と切っても切れない関係にあり、秋になるとVòng村やハノイ市内の市場で多くのCốmが販売されます。また、Cốmは単なる食品ではなく、秋の訪れを告げる象徴的な存在でもあります。特に旧暦の中秋節(Tết Trung Thu)には、Cốmが欠かせない贈り物として親しまれています。
3. Cốmの製造過程
Cốmの製造は手間と時間がかかる伝統的な工程です。このプロセスがCốmの独特な風味と食感を生み出しています。
3.1. 原材料の選定
Cốmの製造には、特別に選ばれた若いもち米が使われます。このもち米は、稲がまだ青々とした状態で収穫されます。収穫のタイミングは非常に重要で、最適な時期に収穫された米のみが高品質なCốmとなります。
3.2. 炒り工程
収穫されたもち米は、まず外皮を取り除くために丁寧に選別され、その後、大きな鍋でじっくりと炒られます。この炒り工程は、米に独特の香ばしさと柔らかさを与える重要なステップです。炒り時間や火加減は職人の経験に基づき、Cốmの品質に大きな影響を与えます。
3.3. つぶしと選別
炒ったもち米は、次に大きな臼でつぶされます。この過程で米の形が平らになり、Cốm独特の食感が生まれます。つぶした後は、再び丁寧に選別され、不純物や壊れた米粒が取り除かれます。
3.4. 最後の仕上げ
選別が終わったCốmは、最後に竹の籠に広げて冷まされます。この過程で余分な水分が蒸発し、Cốmの保存性が高まります。完成したCốmは、鮮やかな緑色と香り高い風味を持ち、丁寧に包装されて市場に出回ります。
4. Cốmの楽しみ方
Cốmは、そのままでも十分美味しいですが、さまざまな形で楽しむことができます。
4.1. そのまま食べる
Cốmをそのまま食べる方法は、最もシンプルでありながら、Cốmの自然な風味を存分に味わうことができる方法です。竹の葉で包まれたCốmを少量ずつ取り、口の中でゆっくりと味わいます。もち米の甘みと香ばしさが口いっぱいに広がり、秋の訪れを感じることができます。

4.2. 伝統的なスイーツ
Cốmを使ったスイーツの代表格が「Bánh Cốm」(バイン・コム)です。これは、Cốmをつぶしてペースト状にし、豆の餡を包んで蒸した餅菓子です。Bánh Cốmは、特に結婚式や祝い事の際に供される伝統的なスイーツで、その美しい緑色と甘い香りが特徴です。

4.3. 料理の材料として
Cốmは、スイーツだけでなく料理にも使われます。たとえば、「Chả Cốm」(チャー・コム)は、豚ひき肉にCốmを混ぜて揚げた料理で、Cốmの香ばしさが肉の旨味と絶妙にマッチします。また、Cốmをまぶした揚げ春巻きも人気の一品です。

5. Cốmの文化的意義
Cốmは、ハノイの秋を象徴する食べ物であるだけでなく、ベトナムの伝統と文化を体現しています。特に、中秋節にはCốmが贈り物として広く利用され、家族や友人との絆を深めるための一助となっています。
また、Cốmの製造は世代を超えて受け継がれてきた職人技術であり、Vòng村などでその伝統が守られ続けています。現代においても、Cốmはベトナム人の誇りであり、ハノイを訪れる観光客にとっても必見の特産品となっています。
まとめ
Cốmは、ハノイの秋を彩る特別な特産品であり、その製造過程から楽しみ方、文化的な意義まで、ベトナムの伝統と歴史が詰まっています。日本人にも、その魅力を広めることで、ベトナム文化への理解が深まり、より多くの人々がCốmの美味しさを味わうことができるでしょう。ハノイを訪れた際には、ぜひCốmを試して、その独特の風味を楽しんでみてください。
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